◇ 暖かい氷の瞳  

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…しかし…空は未だに雲ひとつ現れる様子も無く夏の暑い日ざしを皆に降り注ぎ続けている。

皆長い時間微動だにしなかった。というよりも出来なかったというのが正しいかもしれない。少しでも身じろげばこの絶望を受け入れなくてはならないと思ったのかもしれない。

でもそんな沈黙に意味などなく無常にも雨の気配の欠片すらも現れる事は無かった。

その沈黙を破ったのは大神官でもその補佐をしていた神官達ではなく住人の一人だった。あまりの絶望に耐えられなかったのだろう言葉が飛び出した。


「……おしまいだ……」


その言葉を皮切りに皆次々に絶望の声を上げ始めてしまった。


そして…セラフィールドという国に住む人間にとってこれからの長い長いこの世の地獄の始まりでもある言葉が誰からとも無く吐き出された。


「あいつの…あいつのせいだ!!!」
その人が指している先にいるのは柳だ。


「…………………え……」


柳は皆と一緒に絶望を感じながら、空を見上げていたのでその言葉に一瞬遅れを取ってしまった。


「貴様が現れてからというもの…雨が全く降らなくなった!!」
一人が言い出したらその場は納まらなくなってしまった。これは天災であり決して一個人の人間によってもたらされる物ではないと思っていてももう誰かを糾弾しなくてはどうしようもない恐慌状態に街の人間たちは陥ってしまっていた。


「…そう…そうだわ!その前日まで雨は普通に降っていたのよ!?」
あの時リリアナに作物を持ってきてくれていた女性も柳を親の敵のように見ている。

あの女性は度々ジェンキンス家に来ていたというのに…。柳と話をして親切にしてくれていたのにその恐慌状態に陥った彼女は柳を罵った。


「待たんか!!そんなはずがあるわけがなかろうが!!」
「なに馬鹿な事を言ってるんだ!!そんなはずが無い事を皆分かっているだろう!?」
オーガスタとデイビットが大声を出して柳をかばったがすでに彼らは誰もその言葉を聞いていなかった。

誰かを標的にしないとすでにこの状況に耐えられなくなってしまっているのだろう。


完全に柳は皆の絶望のスケープゴートだ。


「そんな事ないだと!!?」
「そんなはずがあるか!?こんな髪と目を持っている自体がおかしいんだ!!」
とうとう柳にとって何よりもどんな事よりも触れて欲しくない所まで彼らの糾弾ははじまってしまった。


「…………………ぁ……」
柳は何も返す事も出来ずに髪の毛を鷲掴むようにして呆然とした。ひたひたと柳の心に絶望という暗黒の闇が迫っている。

すでに柳の瞳からは光が失われ始めていた。

「信じられないほど肌は白いし!」
「白い!?あれは青白いんだ!!気味が悪い!」
次々と柳を貶める言葉を言っている人間がいる。

もちろんその中にはそれを嗜める人間もいたがその言葉は半狂乱になっている人間たちの耳を素通りして行くだけだった。


「生け贄だ!!」
「こいつを捧げれば雨はまた降るかもしれない!」
その中でも過激な人間が恐慌状態によって思考力を奪われた状態で柳に迫ってきた。


「……う……ぁ………」
柳はもうすでに何も映していない焦点の合っていない目でその人間たちから逃れるように足を動かしたが返ってそれによって広場の中心部の轟々と青白い炎が燃え上がる木の側に来てしまっていた。


「やめなさい!!そんな事をしても何にもなりません!!!!」


中心部から外れた祭壇にいるカザイックが叫んだがその言葉は過激な行動に出ている人間はおろか傍観をしている人間の耳にすらほとんど入っていなかった。


 

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