◇ 暖かい氷の瞳  

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「柳……」
ようやく気を失う事が出来た柳の右半身はすでに完治しているといってもいい程になっている。

だが隠しようもなくケロイド状の痕が残ってしまっている。

もちろん元の世界の医学で回復させようとしたらここまで綺麗になる事は不可能であるくらいの治癒をみせているが到底リィズウェルに納得できるほどの治癒ではなかった。

魔力で回復させるとかなりの回復を見せる。
人間であるのならば通常の人間で80%前後。能力の低いものならばそれ以下だがそれなりに回復できる。稀に強い召喚獣や強大な精霊を従えているものならば人間の極みを超えることができ90〜95%まで瞬時に回復できる。

それでも完全に傷跡を消し去るというのは難しい。リィズウェルは柳の火傷を98%位にまで回復させる事に成功したが…

いかんせん火傷が深すぎた。魔術を多分に含んでいる炎だったのがいけなかったのだろう。正直炎に触れて生きていたのが不思議な位だったのだ。


「貴様ら…私の柳に…」
冷酷に凍てつくアイスブルーの瞳を地面に倒れふしたり、座り込んだりして呆然としている人間に向けた。

自分の上着を脱ぎ柳にそれを着せてそっと地面に横たわらせた。その上着は結界の意味を持っていてリィズウェルよりも弱い者の攻撃であればたやすく弾く事が出来るというものだ。

長身であるリィズウェルにあわせているその上着はとても大きく完全に柳を覆い尽くしていた。

リィズウェルは柳をそっと置くと同時に本来の姿であるとてつもなく大きな大蛇へと変貌した。



<<その身をもって贖え!!>>



リィズウェルが恐ろしい咆哮を上げると同時に一瞬で大地が全て枯れ果ててしまった。

その力は凄まじく大陸の3分の1を占めている大国であるセラフィールド全域を一瞬で動植物が住むには過酷な環境に変貌させてしまった。

その様子をつぶさに見てしまった人間達は茫然自失するしかなかった。


「せ…聖獣……か…」
しんと静まりかえっている中にカザイックの声だけが辺りに響き渡った。


「その…昔…本来なら赤い瞳に蛇の姿を持っている聖獣が…とてつもない怒りによって青い瞳に変わった時にこの世の地獄である天災が起きた事があると…」
その言葉にその場にいた人間はみな聖獣の怒りをかってしまったのかと戦慄した。


リィズウェルの瞳は明らかにアイスブルーへと変化している。間違いようも無い。
<<いかにも。我が伴侶となる者を侮辱し尚且つ傷つけた罪は重い。楽に死ねると思うな…全ての者に天寿を全うする以外の死の選択は出来ないようにした>>
病や老衰、不慮の事故等で亡くなることはあっても自殺は一切出来ないという事だ。


どんなに辛い事があってもその選択は初めから出来ないようにセットされてしまったのだ。その場にいた人間のほとんどは絶望を感じた。

 

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