◇ ◇ ◆暖かい氷の瞳◆ ◇ ◇ ・・31・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「やはり…あの人間のせいじゃないか…」
身の程を知らない一番柳を糾弾した人間がぼそりと呟いた。もうその瞳には狂乱の光しかない。
「違うもん!!!…蛇さん!!お兄ちゃんのせいで雨が降らないなんて!そんなのないよね?」
ライジットは柳をどこまでも純粋に信じていた。
今この状況になった事も自分たちのせいだとそう思っている。子どもながら恐怖があるだろうにそう信じて疑わないのだ。
<<…むろんだ。この世界の環境の一部に過ぎん………貴様は狂う事も出来ぬようにしてやろう…この世の地獄をとくと味わうがいい>>
そういってリィズウェルは最も柳を糾弾した過激な人間たちに処置を施した。
彼らは正気に戻ったが…狂うよりも恐ろしい現実を受け入れなければならないその事実こそが彼らにとって恐ろしい事に違いない。
聖獣の怒りをかってしまった彼らに未来は無い。それでも狂う事すら出来なくなってしまったのだ。彼らは絶望に叫んだ。
「…リィズウェル……」
柳が目を覚ました。
<<柳…>>
するするとリィズウェルは音もなく柳の側に行った。
上体を起こした柳はその大きな赤い瞳を限界ではないかと思われるくらい見開いた。
「………な…な…んで…」
死の大地になってしまっている今まで見てきた環境と全く違う状況を柳は受け入れる事が出来なかった。
ただでさえ弱りきっていた所にそんな情報が入ってきてしまっては柳の許容範囲を超えてしまいリィズウェルの胴体にもたれかかるようにして再び気を失ってしまった。
その柳を支えるようにしてリィズウェルは人型に戻った。
「…柳」
そっと柳を腕の中に抱きかかえた時にはすでにリィズウェルの瞳は元に戻っていた。
ふっとその瞳をライジットに向けた。ライジットはその瞳を見る事は無くただ一心に柳を見つめていた。先程気がついた事でライジットがほんの少し安堵しているのがリィズウェルには分かった。
そして再び気絶してしまった事へのライジットの柳に対する心配も…感じた。
「…名は?」
「…?…ライジット…」
すっとリィズウェルの瞳が眇められた。リィズウェルは納得したように小さく頷いた後ライジットの額にそっと指先を当てた。
父であるカザイックは一瞬で真っ青になっていた。それに構わずライジットは柳とリィズウェルを見続けた。
「そなた…柳を庇ってくれたのだな」
「お兄ちゃんは悪くないもん」
「そうか…そなたに…ひと雫の光を…」
リィズウェルは指先から発した光をライジットの額から体内に入れた。光が取り込まれた事を確認するとリィズウェルは指を離した。
「…あったかい…」
そっとライジットはリィズウェルが触れていた額に触れた。
「…柳の事を忘れてくれるな…」
ライジットにしか聞こえない声で囁きかけるとリィズウェルは音もなく柳と共にその世界から姿を消し去った。
「いっちゃたな…」
「そうだな…」
ジェンキンス父子はそっとそう呟きあった。
「…自業自得だ…復興して見せよう」
「親父…そうだな…」
デイビットは掌で顔を覆って声を返したがその声は涙に濡れていた。
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