◇ 暖かい氷の瞳  

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リィズウェルと柳は最初にリィズウェルが氷漬けにされていた場所に戻ってきていた。だがその場所は以前のように剥き出しのままではなくきちんと人が住む事が出来るような環境に整えられていた。


というよりもここがあの洞窟だと言っても信じる者はいないだろうと思われるくらい立派になっていた。その中をリィズウェルは進んでいき、大人でも5人位なら充分に寝ることが出来るのではないかというくらい大きなベッドに柳をそっとリィズウェルは降ろした。




そしてリィズウェルは少し自分の衣服を緩めてベッドの端に腰を降ろして柳の顔を覗き込んだ。柳の顔色はまだ少し悪い。リィズウェルが回復したとはいえあれだけの火傷を負った後なのだからそれも無理ないだろう。


「柳……」
柳は先程火傷を負った姿のままなので衣服は申し訳程度に柳の肌を覆っているだけだった。そっとリィズウェルは柳の身体から焼けてぼろぼろになってしまった衣服を取り除いた。やはり柳の右半身のほとんどをケロイド状の痕が占めていた。


「……美しい肌だったろうに……」
そっとリィズウェルは指先で柳の身体に触れた。


そして柳の心臓の真上に当たる場所に唇を落とした。するとその場所が淡く光り、リィズウェルが唇を離すとそこにはリィズウェルの瞳の色と同じ色彩の花のような模様が描かれていた。
肌蹴られているリィズウェルの胸元にも全く同じ模様が現れていた。
「…柳…」
リィズウェルはそっと柳の肩口に顔を埋めた。




リィズウェルのような聖獣と呼ばれる者達は真名を誰にも伝えない。


もちろんそれが自分の親であっても呼ぶためだけの名前しか呼ばせないのだ。決してそれを誰かに言ったりする事はない。唯一自分の伴侶となるべき人間のみに真名を伝えるのだ。ごくごく稀に心から信頼して感謝の意を示す時に真名の略称を伝える事もある。

リィズウェルも例に漏れず他者には基本的に自分の事をウィルという名前で通している。
それさえも呼ばせない事もあるくらいなので彼らにとっていかに名前というものが大切かというのが伺えるというものだ。

今リィズウェルが行った儀式は相手との名前の交換を行った後にするものだ。つまり聖獣にとっては真名を伝えるというのは生涯ただ一度の最大の儀式ということになる。

その伴侶は基本的に聖獣とは別種族から迎えられる。もちろん同種族で行う事もあるがほとんどない。


そして伴侶を選ぶ判断材料は本能のみ。


その本能によってリィズウェルは柳を伴侶に選んだのだ。




「…真名を伝えていなかったら…柳を探し出せない所だった…」
リィズウェルは必死に氷を溶かそうとしてくれた柳の姿を一目見た時から自分の伴侶は彼だと直感していた。

たいてい聖獣が人間と会う時には人型をとって会い、打ち解けた時に真の姿を見せるのが普通であった。だから本来の姿で初めて会ったので、怖がらせてはいけないと慎重になったのがいけなかったのかもしれない。


結局大慌てで真名を伝える事になってしまったが…結果的にそれが吉と出たのだ。

 

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