◇ 暖かい氷の瞳  

・・34・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……ん……」
その動きに反応したのかわずかに柳が身じろぎをした。目覚めが近いのかもしれない。

殆どベッドに一緒に横たわるようにして柳を抱きしめていたリィズウェルはそっと顔を上げて柳の顔を覗き込んだ。すると柳の瞼が震えてそゆっくりと開けられた。

リィズウェルが何よりも見たいと思っていた赤い瞳が現れた。

「……?……だ…れ……?」
「あぁ…この姿では初めてだったな…私がリィズウェルだ…」
柳はまだ焦点が合っていない瞳をそっと自分のすぐ側にいる美丈夫に向けた。


柳にとって見覚えは全く無い顔立ちだがあの洞窟で出会った大蛇と同じ眼差しを持っているように感じた…ただ初めて出会った時とは違う所があったので躊躇いがちに柳は言葉を発した。


「…目の…色が……」
「……あぁ…私達の種族は怒りや悲しみなどの感情によって瞳の色が変わるんだ…」
そう言ってリィズウェルはそっと身体を起こして横たわっている柳の右半身に視線を落とした。


そのアイスブルー瞳は暗い怒り、悲しみに彩られていた。未だにリィズウェルの中で柳の怪我の事を消化できていない証でもあった。そのリィズウェルの瞳の行方が自分の火傷を負った右半身に向けられている事に気が付いた柳の瞳もまた悲しみに染まった。


「リィズ…助けてくれてありがとう…。僕あのままだったら確実に死んでいたよ?リィズが来てくれてよかった…。この怪我は僕のせいなんだ…だからリィズ…悲しまないで…ね?」
そういって柳は怪我をしていない方の手でそっとリィズウェルの頬に触れた。

リィズウェルはその柳の優しく触れてくる掌に自分の手を重ねた。

そして誰にも見せた事の無いこの世で唯一愛しい者…柳にのみにしか向ける事の無い切ない暖かい氷の瞳で見つめた。


柳にとってもこの怪我はショックであったはずなのに、リィズウェルの事を心配する事ができる柳がリィズウェルにとって誇らしかった。不甲斐ない自分を許すつもりは全く無いがこれ以上リィズウェルが柳の火傷を見る度に悲しい顔を見せたら柳が返って気にしてしまうのでリィズウェルはこの感情を自分の奥底に押し込めた。


忘れるつもりは無いがそれを柳に悟らせるような事の無いようにしていく事を決めた。例えそれがこの先も長い生涯隠し通さなくては成らない事であっても覚悟は出来ていた。

その決意と共にリィズウェルの瞳も瞬きと共にアイスブルーから緋色に変わった。


「柳…愛している…生涯私と共に…」
「リ……リィ…ズ」
リィズがそのまま柳の唇に唇で軽く触れてきたので柳は一気に真っ赤になった。もちろん柳も彼の事を思っているので嫌とか不快などは全くなく、ただただ恥ずかしかった。

そんな柳の初々しい様子にリィズウェルは笑いを零すとまた柳の唇に優しい口付けを落とした。


その状況が恥ずかしくてならない柳はあわあわと瞳をあちらこちらに飛ばしてまともにリィズウェルの顔を見る事ができなかった。

 

 *