☆ ★恋は盲目 ☆ ★

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「ちょっと井ノ口君!!」
「あ?」
振り返ったらそこには以前学祭でミスを取った女がいた。


正直俺はこの女を少々…いやかなり…ウザイと思っている。確かに可愛いかもしれないがそれを鼻にかけ、全ての男は自分に膝まずくと思っているのではないかという傲慢さ。それでいて媚びを含んだ目がただ不快だった。

出来れば関わりたくない。



「ちょっと聞いてるのっ?」
馴れ馴れしく腕に触れるな。


「で?なに?」
さりげなく身を引いて彼女の腕を振り払った。傍目には分かりにくいだろうが本人にはあからさまに分かったかなと思ったがかまうもんか。


「…ねぇ、どっか飲みに連れていってよ」
はぁ!?脳に虫でもわいたのか?この女は??何そのおねだり調な命令系。

俺には『連れていきなさい。このブタっ』って聞こえたぞ?どこまで自分中心なんだ?地球は自分中心に回ってるとでも思ってんじゃね〜のか!?マジうざっ!



「…俺一応付き合っている人いるから無理。それじゃ」
思いっきり罵詈雑言をぶつけてやりたかったがこういう女は後が怖い。


付き合っている人がいるなんて奴相手にしないだろうしな。しかし…俺は甘かった。



「いいじゃん。そんなの。どうせ相手だって何しているかわかんないんだし。行こうよ〜」
すまん。俺にはこいつの思考回路が理解できん。きっと宇宙人なんだな。


あれだよ。何とか星からきたんだりん☆とかいうやつだよ。はっきり言ってあれは大声で『私はバカですぅ!!』って言っているようなもんだろ?


暫く思考の海を漂っていたらまた更なる混沌に叩き込む言葉が耳に入ってくる。


「んもうっ、こんなに誘ってるのにィ。しょうがないわ。皆で飲みに行こうよ。それで許してあげる」
シャットダウンしていいですか?


「許して…」
あげるだとぉう!!??何様だよこいつ。あん?非常識様かっつのっ!!どっかに電源入ってないか?きっとこいつは不良品ロボで宇宙人に廃品回収に出されたに違いない!!強制終了してやる!!


マジギレ態勢に入っていた所にふと人の気配が背後に…
「いいじゃん。いいじゃん。俺も仲間に入れてよ」
がしっと俺の肩に手を置いたのは小学生以来の悪友。藤崎仁(ふじさきじん)だ。


ボザボサだが一応決めているらしい髪に少しお洒落っぽい黒ぶち眼鏡がトレードマークだ。



「私もいくワ。サークルの連中も誘ってさぞかし盛大な宴を催しましょう」
ベリーショートが凛々しい木原 早紀(きはら さき)女史だ。

あぁっ女神様。あなたが神々しく見えるっ。いつまでも貴女を崇めたてまつります!!!


「……えっそれは…」
「いいよね。さてどこで飲む?やっぱり安くてうまい所よね!」
反撃に出ようとした宇宙人はあっけなく打ち落とされてしまった。当たり前だ。木原女史に逆らっちゃあいけない。常識だぞ?これ。


すると…宇宙人女が俺の腕にしがみついて思いっきり引いてきたので自然俺の姿勢は低くなった。



「んもぅっ!井ノ口君がしっかりしないからこんな事になるのよっ。場所だって勝手に決められちゃうしっ」
はぁ!?あげくには俺のせいになんのっ!?どんな法則が働いたんだよ!?誰か順序だてて説明PLEASE!!!



「な〜に内緒話してんの?俺も混ぜてよ〜」
ナスタイミング!藤崎なかなかいいぞっ!!しかし早く腕離してくれないかな。女の体臭…もとい香水が臭い。


どうしてこんなものをわざわざ身体に振り掛けるんだろうな?理解できん。そもそもトイレの芳香剤とどのあたりの成分が違うんだ?



「邦昭どうしたの。こんなとこで大騒ぎして…」
あぁ!!俺のオアシス!!亮平〜………って俺今宇宙人に腕組まれてんじゃんっ!!


とんでもないっ。俺は体を少々強引によじって女の腕を引きはがして亮平に近付いた。
「亮平ごめんな。今日な、飲み会あるから夜会えないんだ。でも夕食、食べるなら冷蔵庫に冷凍している食材があるから解凍して食べていいから」
多少ワタワタしていたかもしれない…俺ってもしかしてちょい情けないか?



「そうなんだね。ありがと、合鍵使っとく。じゃあ明日ね」
にっこり笑った顔が畜生めっ可愛いじゃあねぇかっ………あれ?俺が慌ててた宇宙女が俺の腕組んでたシーン、もしかしてスルーされたのか?あれ?



「ごめんね〜今日は邦昭君借りるね〜」
陽気に仁が亮平に話しかけている。それにはちょっと引き気味に返事している。やっぱり人と接触するのが苦手みたいだ…。


「えと…邦昭またね」
これ以上仁と話しを出来なかったのだろう俺に別れを告げるとそそくさと立ち去っていった。



「相変わらず小動物みたいだな〜イメージで言えば子リスみたいな?」
横で笑っている仁を余所にやっぱり思考がループする。


あれ?やっぱり女と一緒にいるシーンを思い出しても亮平全く表情一つ動かさなかったよな…俺は仁と亮平が話しているだけで…例え亮平が人慣れしてなくてまともな会話になっていなくても…嫉妬するのに…。
俺ってもしかして自分で思っていたよりも亮平に愛されてないのか?



「っ!井ノ口君っねぇっ!」
宇宙女が何か言っているが…お前の電波は俺の受信機に周波数が合っていないのでキャッチできません。無言で振り払ってスタスタと歩いた。正直バカ女にはもう触られたくない。

……臭いし。

「お前…相変わらずだな〜…」
仁が後ろを見てなんか笑いながら言っている。宇宙女の金切り声が聞こえるような気がするが気にしません。これで嫌われて相手をしなくてすむなら大歓迎だ。



「…って思考の海に沈んでるし。顔がよくてもなんでこんな無表情無口男がモテるんだか…しかもすぐ自分の世界に飛んで行くし」


ほっとけ。

 

 

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