■ □ よよいの酔い■ □ 

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 「この後、講義ないよね」

「ねぇ…飲みに行く前にちょっと遊びに行こうよ〜」

また耳ざわりな『音』が聞こえてくる。

「だから…さっきも言ったじゃないか…」

はっと俺は顔を上げた『言葉』が…彼の声が聞こえた。その続きを聞くのが嫌で俺はさっさと声をかける事にした。たまたま聞こえた言葉で傷つきたくなんか無い。

「相庭〜楽しそうなとこ悪いんだけどさ〜ちょっといいか?」

ここでダメとか言われたらおれはこの場で喚くぞ!?だがそんな心配も虚しくちゃんと相庭は反応してくれた。


「いいよいいよ!もちろん!……呼んでるから…じゃぁ…」

「あぁ!!……んもぅ…約束だからね〜!!」

耳障りな『音』が遠ざかっていく。できる事ならすべてのあんな音をシャットダウンできたらどれだけ幸せになれるだろう。俺にとって女はなんの苦労もしていないでも男を手に入れる権利を持っている人種だ。

その点俺なんかはどんなに尽くしても結局は捨てられてしまう運命なのだ。それなら最初からあきらめた付き合いをしていればいい。そうしたら傷つかなくてすむ。


「助かったよ。あの娘達しつこかったんだよ」

うんざりした様子も隠さずに相庭は言ってる。はぁ…もうやになるね。それに喜んでいる自分に気が付くのがどれだけ苦痛か彼には分かっているだろうか?
俺はあいまいに笑いながらごまかした。それに気が付いたのか移動中の相庭は無言だった。




「ここの部屋使ってないみたいだし…ここでいいか?」

俺達はしばらく言ったところにある空き教室に入った

「どうしたんだ?なにかあった?彼女たちのことなら何にも無いよ?」

俺の空気を感じたの相庭はお互いが机に座ったあたりで真っ先に話しかけてきた。

「そんな話じゃないよ…俺達さぁ付き合いやめようぜ」

「……っ…なんで?」

相庭は俺が思っていたよりもずっと激しい反応を見せた。予想外の反応だったので一瞬俺は目を丸くしたが息を吸い込んで落ち着かせた。


「少し前から考えてたことだ」

「俺なんか気に触るようなことをしたか?」

相庭は俯いてぽつりと零した。その下がった頭をぼんやりと見つめながら話を続ける。

「そうじゃない。お前、俺がゲイだって分かってるか?」

「…それはもち…」

「いいや。わかってない。俺は同性愛者だ。まぁ記憶にほぼ残っていない以上説得力に欠けるが…俺とお前は身体の関係を持った以上普通の付き合いはできないんだよ。お前も記憶が曖昧だったみたいだが覚えているだろう?」

「…覚えてるさ。あの時は夢だと思ってたけど…お前より記憶がある方だと思う」

初めて聞く事実だった。この場合記憶が反対だったらよかったのにと思った。俺みたいにネコの立場にある人間は記憶にもし残ってなかったとしても体に残った情事による影響は感じざるを得ない。

しかしタチなら記憶がなければすっきりしてるかな位の感覚ですむはずだ。彼にとっては覚えている必要もないものであるはずだから俺にその記憶が欲しかったなぁ…っと……女々しいな…俺も。


「悪いな、そんな記憶残して。まぁ…一夜の火遊びとして忘れてくれ。連絡もしてこないでくれな。俺とお前は全く赤の他人に戻るわけだし」

「そんな!!冗談じゃないぞ!?」

相庭が激昂する姿なんて初めて見たな。というより見てない部分の方が多かっただろうな。

身体の関係を持っていなくて俺がこんな気持ちを持ったりしなければもっと彼との友人関係を楽しんでもよかったかもしれんが……もしもの話をしても意味が無いな。


「冗談なんかじゃないよ。んじゃ、俺ケータイ変えにいかないといけないし」

荷物を持って出て行こうとした。これ以上彼の顔を見ていたらおそらく意識していなくても涙がこぼれてしまいそうだったから。

いつになったら俺だけを愛してくれる人なんて奇跡の人間に会う事ができるんだろうか。そんな日は永遠に来ないかもしれないな。

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